「コロナ新時代への提言2」を観て思うことーphysisとlogosの新しいバランスを模索するとはー

NHK BS1スペシャル「コロナ新時代への提言2」を観ました。福岡伸一さん(生物学者)×藤原辰史さん(歴史学者)×伊藤亜紗さん(美学者)による鼎談です。
宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」漫画版を題材として、このコロナ禍をどのように捉え、また生き抜いていくための提言を示してくれていました。(映画版ではなく漫画版というところが肝です!)

漫画版「風の谷のナウシカ」は全7巻

この番組の中でとても重要なキーワードがギリシア語のphysis(ピュシス)logos(ロゴス)です。
physis(ピュシス)とは【自然】。ありのままの自然であり、それは気まぐれで、アンコントローラブル(コントロールすることができない)な性質。
logos(ロゴスとは【言葉、論理】であり、そこから文明を表します。

福岡さん曰く、「人間は唯一physisの外に出た生物」であり、「遺伝子の掟から外に出た」稀有な生命体なのだとか。

現代の人間社会を見ると、様々なlogosに囲まれ、便利で、効率的で、スピード感があり、多くの選択肢に満ち溢れている反面、土や木や水という自然環境の要素が極端に排除され、人間の都合と欲が最大限優先されるようにコントロールされた、無機質な環境や状況ではないでしょうか。

福岡さんは言います。

行き過ぎたlogosを、physisが阻む

行き過ぎた効率性や便利さ、現代においてはある種当たり前と思っていた価値観が、ある日突然まるでパソコンの「強制リセット」ボタンでシャットダウンするような出来事や感覚を体験したことはないでしょうか?

私達には、あります。

夫は、幼少の頃からのアトピー性皮膚炎が社会人になって悪化し、長期療養のための休暇を必要としたほどに身体から発せられる「強制リセット」を体験しました。

私は、中学校教員を天職と感じて働きながらも、鬱となり、ある朝突然動けなくなり、病気休暇をいただくほどに、心から発せられる「強制リセット」を体験しました。

2人とも生きることが困難な状況に置かれ、寝たきりや引きこもりの期間に生きることを根底から見つめ直し、どうしたら健康で、一日一日を生きていくことができるのかを、文字通り命懸けで模索しました。

その模索の中で、藁をもすがる思いで見出したのが、食の在り方でした。

そして食を真剣に見つめ直すと、その先には作物を育む土、つまり畑の在り方にいきつきました。

そして畑の在り方、つまり農法などを真剣に学ぶと、その先には土や水、空気などの地球環境の在り方にいきつきました。

自分の肉体と心を健やかに保つためには、自らがphysisであることを思い出し、取り戻しながら、地球環境という大いなるphysisの深い理解とアクションが必要であることを、命懸けで腑に落ちたのです。

physisは気まぐれで、あまりに非効率で、コントロール不能です。自然や生命の本質は本来physisであり、時に容赦なく冷酷で、だからこそ一瞬の煌めきは鮮烈で、温もりがあり、尊厳を感じます。

一方で、生まれながらにして高度経済成長の恩恵の中に生まれ育った私達が、全てのlogos=文明を100%否定したり放棄するのは、それもまたアンバランなのだと感じます。
私達は農機具を使いますし、スマホやパソコン、車も使います。電気や水道なども使います。医療や流通というお蔭様の存在によって文明の恩恵を受け、ある意味守られて生活することができています。

私達夫婦は命懸けでphysisを取り戻し、本当に必要だと感じる文明の恩恵=logosを持ちながら、physislogosのバランスを今もずっと模索しています。

どちらか一方だけではなく、相反する両者どちらも大切にしながら、無理しすぎず、我慢や義務感ではなく、喜びや美味しさを感じながら、バランスや調和を手探りし続けています。

コロナの出現からの世界的パンデミックは、行き過ぎたlogosphysisが阻み、強制リセットさせるかのような混乱と不安の中で、生きることや生命としてのphysisの本質に立ち還る、真に新しい価値観への変容と生活様式の構築を促されている。(福岡伸一さん)

また、大いなるphysis=地球環境はすでに限界を超え、人間の文明社会というlogosに強制リセットをするかのように、年々異常気象が加速しています。
私達は日々畑の土と向き合い、作物の声なき声に耳を澄ませ、天候など微細な自然災害の中にあるような毎日にあって、未来のために地球環境を残していくというよりも、現状をさらに悪化させない取り組みさえも追いついていない焦燥感を強く感じています。

自家製味噌の原料となる青大豆の種まき

しかし、もう間に合わないかもしれないけれど、その危機感と焦る気持ちを声高に発するのではなく、静かに淡々と黙々と身近なphysisに向き合い、手を添えていきたいのです。

そして、ハチドリがひとしずくを運び続ける行動(実践)で仲間を広げたように、私達の実践は吹けば飛ぶようなあまりに小さいものだけど、自分と地球環境というphysisを大切に思う同じ志をもった仲間とつながっていきたいと願っています!

※「コロナ新時代への提言」は1~3まで放映され、NHKオンデマンドで視聴購入ができます。「コロナ新時代への提言2」は昨年2020年の年末に放映され、私達はオンデマンドで2021年7月に視聴しました。(72時間視聴可能で220円)2021年9月現在、提言2だけオンデマンド上で公開されていないようで、たくさんの方に観ていただきたいとお勧めしたかったのに残念です。

【追記】
福岡さんをはじめ、このお三方の鼎談が書籍化されました。
「ポストコロナの生命哲学」(集英社)
NHK BSで放映された内容に未公開映像なども収録されているそうです。私達も読むのが楽しみです!